学得!エシカル入門

学生のための水とエシカル消費入門:お小遣いから意識する水の価値

Tags: 水問題, エシカル消費, 環境問題, 持続可能性, 仮想水, 節水

はじめに:見えない水と私たちの消費

私たちの日常生活は、水なしには成り立ちません。飲む、洗うといった直接的な利用だけでなく、私たちが日々手に取るモノや食べ物を作る過程でも、膨大な量の水が使われています。しかし、この「見えない水」の存在や、それに伴う水問題について、私たちは十分に意識しているでしょうか。

世界や日本各地で発生している水不足や水質汚染といった問題は、単に一部地域の課題ではなく、グローバルなサプライチェーンを通じて私たちの消費活動とも深く繋がっています。エシカル消費を考える上で、この「水」という視点は非常に重要です。

この記事では、水問題の現状と私たちの消費との関わりを解説し、学生の皆さんでもお小遣いの範囲で実践できる、水に配慮したエシカルな行動や選択肢について掘り下げていきます。

世界と日本の水問題

水問題は多岐にわたります。主な課題として挙げられるのは、水不足(物理的な量の不足、または適切なインフラの不足によるアクセス困難)、水質汚染(産業排水、生活排水、農業排水などによる汚染)、そして水に関連する生態系の破壊です。

地球上の水のほとんどは海水であり、利用可能な淡水は全体のわずか約2.5%にすぎません。その淡水も、氷河や地下水が多くを占め、河川や湖沼といった利用しやすい水はさらに限られています。人口増加や経済発展に伴い、水の使用量は増加の一途をたどっており、特に農業用水、工業用水としての利用が大部分を占めています。

日本は比較的降水量が多い国とされていますが、地域や時期によっては水不足が発生します。また、高度経済成長期には水質汚染が深刻化しましたが、規制や技術開発により改善が進んだ一方で、現在も工場排水や生活排水、農薬などによる水質汚染は課題として残っています。さらに、異常気象による渇水や集中豪雨も水資源の安定供給に影響を与えています。

消費活動と「仮想水(バーチャルウォーター)」

私たちが購入する商品やサービスには、生産から輸送、販売に至るまで、様々な段階で水が使用されています。この、食品や工業製品を生産する際に使われた水のことを「仮想水(バーチャルウォーター)」と呼びます。

例えば、1kgの牛肉を生産するには、家畜の飼育や飼料の栽培に大量の水が必要となり、その仮想水は約20,000リットルにもなると言われています(数値は条件により変動します)。Tシャツ1枚(綿製品)を作るのにも、綿花の栽培などに約2,700リットルの水が使われるという試算もあります。

私たちは、海外から農産物や畜産品、工業製品を輸入する際に、その生産過程で使用された仮想水を間接的に輸入していることになります。水資源が豊富な国から不足している国へ仮想水が移動することで、水資源の少ない国に負担をかける可能性があります。

私たちがどのような商品を選び、どのように消費するかは、この見えない水の移動や利用、そしてそれに伴う環境負荷に直接的・間接的に影響を与えているのです。

お小遣いから始める水のエシカル消費:実践編

「お小遣いで」できるエシカルな水消費は、高価な商品を購入することだけではありません。日常のちょっとした行動を変えたり、商品の背景にある水のストーリーに目を向けたりすることから始められます。

  1. 日常生活での節水を意識する:

    • 歯磨き中や食器洗い中に水を出しっぱなしにしない。
    • シャワーの時間を短くする。
    • 洗濯はまとめ洗いをする。
    • お風呂の残り湯を洗濯や掃除、植物の水やりなどに再利用する。
    • 節水タイプのシャワーヘッドや蛇口を使用する(初期投資が必要な場合もありますが、長い目で見れば水道代の節約にも繋がります)。 これらの行動は直接的な水道代の節約になるだけでなく、水処理にかかるエネルギー使用量の削減にも貢献します。
  2. 商品の「仮想水」を意識して選ぶ:

    • 食品:
      • 食料自給率の高い国産品を選ぶことは、遠い国の水資源に与える影響を減らすことに繋がる場合があります。
      • 過剰な加工が施された食品よりも、シンプルで生産過程の水使用量が少ない食品を選ぶことを心がける。
      • 旬の食材や地元の食材を選ぶ(輸送距離が短く、一般的に水使用量も抑えられる傾向があります)。
      • 特に仮想水が多いとされる畜産品や一部の輸入品について、消費量を少し減らすことを検討する。
    • 衣類:
      • 大量の水を消費する綿製品だけでなく、リサイクル素材や、水使用量が比較的少ない素材(例:麻、リヨセルなどの一部素材)を使用した製品にも注目する。
      • ファストファッションに偏らず、長く着られる質の良い服を選ぶ。
      • 古着を購入したり、服をリサイクルしたりする。
    • 日用品:
      • 節水効果のある家電製品(洗濯機、食洗機など)の情報を得る。
      • 詰め替え用製品を選び、容器生産に伴う水使用量を削減する。
      • 環境配慮型の洗剤など(生分解性が高く、排水による水質汚染リスクを低減するもの)にも目を向ける。
  3. 企業の取り組みに関心を持つ:

    • 購入を検討している商品やサービスを提供している企業が、水の持続可能な利用や排水処理、水源保護にどのような取り組みを行っているかを調べる。企業のウェブサイトやCSRレポートなどを参照してみましょう。
    • 水の利用効率が高い技術を導入しているか、サプライチェーン全体での水リスクをどのように管理しているかといった情報は、企業の信頼性や倫理性を判断する上で参考になります。
  4. 情報収集の方法を知る:

    • WWF(世界自然保護基金)やUNICEF(国際連合児童基金)など、水問題に取り組む国際機関やNGOのウェブサイトで情報を得る。
    • 関連するドキュメンタリー番組や書籍を調べる。
    • 大学の講義やゼミで水問題や環境経済学、開発学などを学ぶ。

さらなる学びへ

水問題は、気候変動、食料安全保障、エネルギー問題、そして貧困や紛争といった様々な社会課題と複雑に絡み合っています。一つの商品を選ぶ、一つの行動を変えるといった消費者の選択は、小さな一歩かもしれませんが、多くの人が意識し行動することで、社会全体、そして世界の水の持続可能性に大きな影響を与える可能性があります。

今回ご紹介した内容は、水とエシカル消費の入門に過ぎません。興味を持たれた方は、ぜひ以下のキーワードを参考に、さらに学びを深めてみてください。

これらのテーマを掘り下げることで、私たちの消費活動と水の深い繋がり、そして持続可能な社会を築く上での水の重要性について、より包括的な理解を得ることができるでしょう。お小遣いの範囲でできることから、水の価値を意識し、エシカルな選択を始めてみませんか。